Pa13、「アルフォンス 2」スローライフ Pa 13 「アルフォンス 2」 H18,1/9 15:00 些細な各自の思惑や感情は交差したりもしたが、 大きく表面にでる事もなく、日が過ぎ いよいよ受験の日を明日にと迎えた。 朝出るときには、ロイがくどい位 今日は家事はしないようにとエドワードに言い 約束をするまで家を出ようとしなかった。 これ以上、ロイに心配をかけさせるわけにもいかず、 エドワードも 「わかった。」と返事をし、 それにも念を押してくるロイに 真面目に返事を返して、ロイの不安を取り除いてやった。 出かける前の二人のやりとりには だいぶんと 慣れてきたアルフォンスだが、 少々、あきれてもいる。 『別に長の別れでもあるまいし、 よくもまぁ、毎朝あれだけ別れを惜しんで 出勤出来るもんだなー。』と。 それに、いちいち怒りもせずに付き合うエドワードも 大人になったんだな~と感心もする。 ロイの許可を頂いたので、今日は午前中から受験のおさらいを 二人でし、明日に備えて今日は早めの夕食にして 休養をとるようにする事になっている。 勉強の合間のお茶の時間にアルフォンスは 朝に ふと浮かんだ疑問を口にしてみる。 「ねぇ、兄さん。」 「うん?」 問題集を解きながら、曖昧な返事を返すエドワードに 「中将って、いつも出かけるときは あんな感じなの?」 「へぇ? あんな感じって・・・。」 アルフォンスの意図するところがわからず 質問を鸚鵡返しして、キョトンとした表情を向ける。 「なんて言うのか、凄く気にかけてるみたいでしょ? 出来れば兄さんを一人にしておきたくない みたいな感じだから、兄さん 中将の留守中に 何かした事とかあったのかな~と。」 そう説明するアルフォンスに納得したのか、 ああっとうなずく。 「いんや、別に ここに来てからはな~んもしてないぜ。 ってか、家から出ないしな。」 「出ないって、買い物とかは?」 そう言えば ここに来てから、1度も買い物とかに 出て行った事もなかった。 困らなかったからわからなかったが、 変と言えば変だ。 「ああ、そういうのは アイツが手配して 全部、運んでもらってる。」 「運んでもらう?」 「そう、ほらたまに配達とか来てただろ? あれがそう。」 「ああ。」思い当たる時があったので、 アルフォンスも納得した。 したが・・・、 「まぁ、今は まだおおぴらに ここに戻ってる事を 知らせてないんだ。 だから、外に出るのは極力控えてるんで、 あいつも気にかけてるんだろ。」 「で、でも、兄さん ここに来てだいぶんと経つんじゃ・・・。」 「う~ん、そうだな そろそろ1ヶ月は過ぎてるかな?」 「1ヶ月・・・、それまで1度も出たこと無いの?」 活発な兄を知っているアルフォンスにしてみれば 驚きの連続だ。 「うん・・・、まぁ 色々とあって出てないな。」 エドワードにしてみれば、 1ヶ月出てないというより、気づけは1ヶ月出てなかったと いう感じなのだが。 「でも、別に不自由はないぜ。 ここは 本も山ほどあるしな。」 もともと、熱中している間は 何日でも篭る事も 平気だったのは昔からだが、 今はとり急ぐ事もない状況で、1ヶ月以上も 外に出ずに家にいるとは どんなものなんだろう。 「兄さん、退屈しないの?」 自分なら耐えられないだろう事を考えて、 兄を気遣うように話す。 「えっ? なんで?」 そんなアルフォンスの気遣いがわからなくて 不思議そうに聞き返してくる。 「なんでって・・・、だって ずっと家に居て 家事だけしてるんでしょ? 僕なら、退屈しそうだなーと思って。」 そう言われれば、そうかもと改めて気づいたのだが 別に不自由も退屈もしていない。 「いや別に・・・。 夕方には ハボック少佐達とか、ホークアイ中佐も 良く料理の事を聞きにきたりとかしてるし、 たまに、そのまま飲み会とかになったりで あんまり、気にしてなかったな~。」 「じゃあ なんで、大佐は いつも出るときに あんなに気にかけて出るわけ?」 「いや、別にいつも今日みたいな感じってわけじゃないぜ。 普通に出て行く時も もちろんあるし。 まぁ、今は まだちょっと落ち着いてないってのもあるんだろ。 もう少し、ここに俺が居るのに慣れたら 自然と落ち着くと思う。」 ロイは 今だ、必ずエドワードが居てくれる事を 実感できてないようで、何かしら確認をしたがる。 今は アルフォンスがいるから そう頻繁でもないが、 電話も 実は結構 まめにしてくる。 何か特に用があると言う訳でもなく、 エドワードがいるかを確認する為だけにかけてくる感じだ。 また、急に居なくなったりしないかと・・・。 多分、ロイ自身は余り考えてやっている行動ではないだろう。 無意識に そう動いている感じだ。 エドワードは そんなロイの行動に気づいて、 なるべく 外には出ないようにしていたのも 多少、外出しなかった理由でもある。 けど、それをアルフォンスに説明するのは難しい。 何故、ロイが そこまでエドワードを気にかけるのか?と 聞かれれば、エドワード自身にもわからない事なのだから。 そんな事を考えているエドワードを、 アルフォンスは 不満げに見つめていたが、 考えに浸っていたエドワードは気づかなかった。 「できた!」 どうだとばかりにアルフォンスに見せてくるエドワードから 試験問題集を受け取り、採点していく。 「うん、兄さん 完璧だよ。 ケアレスミスもないし、満点間違いなし。」 アルフォンスも 教え甲斐のある生徒を持てて嬉しそうに 褒めてやる。 「良かった~、これでなんとかなりそうだぜ。」 エドワードも ほっと一息つく。 「けど、良く頑張ったよね~。 僕も 実は最初は どうなるかと思ったんだ。」 今でこそ言えるが、という風にアルフォンスが語るのを 「おい、最初に言った事とちがうじゃないかよ。」 口を尖らせて文句を言うエドワードの表情も明るい。 「まぁ、これだけ出来れば 足を引っ張るどころか 上乗せできる位上出来だよ。」 最初の事を考えると本当に見違えるように出来るようになった。 もともと出来ないと言うよりは、興味を持ってなかったから 知らなかったと言うだけで、知れば そこはさすが 天才の名を欲しいままにしているエドワードだけあって、 あっと言う間に理解力を上げていった。 今では、この道に進んでも通用するような理解力と解析力で アルフォンスを唸らせる事もしばしばだった。 「んじゃ、他もざっと解いて見るから アル、採点頼むな。」 他の教科は もともと苦もなく出来ていただけあって、 スラスラと解いていってはアルフォンスに渡してくる。 採点するアルフォンスの方が追われる位だ。 そんな兄を見ていると、つくづく兄の優秀さには 羨ましいのを通り越して、感心する。 「ん、問題ないよ。 全部 満点。」 「よっしゃー、んじゃ 明日の試験を待つだけだな。」 勉強は これまでと片付けの準備を始める。 『明日は また記録を塗り替える事になるんだろうな。』と 常に記録を更新していく兄を、誇りに思う。 アルフォンスにとってエドワードは 常に誇りの人だ。 錬金術の才能も、人はみな アルフォンスも並ぶ位優秀だと 褒め称えていたが、本当の天才を身近に持っているだけあって、 どんなに努力しても追いつけない事は見に染みて解っていた。 アルフォンスが 一晩かけて出した答えも、 エドワードは あっさりと一瞬で答えを出してくる。 考えて出すと言うよりは、すでに答えを中に持っていて それを引き出してくるという感じだ。 そんな兄に悔しいと思った事はない。 アルフォンスにとってエドワードは、太陽のような存在で 無くてはならない存在であり、唯一の人間であり血を分けた兄弟だ。 そして、永遠の憧れと目標でもある。 そんな兄だからこそ、事情があるとは言え 家事だけをして、閉じこもっているのが歯痒い気がしてならない。 兄を批判する気は さらさらないアルフォンスにしてみれば、 そういう環境にしているロイに不満が向けられるのは 致し方ない事だろう。 夕食は どうしようかと二人で話していると タイミングよくデリバリーが到着する。 エドワードにしてみれば、想像がつく事だったが アルフォンスにしてみれば、 家で食事をするのに、わざわざ料理を配達させるという感覚が わからない。 しかも、そこらの惣菜屋の料理というのではなく ちゃんとしたレストランのコースだ。 あっけにとられているアルフォンスに エドワードは 苦笑しながら、 「まぁ、あいつの心使いだから ありがたく頂戴しようぜ。」と宥める。 「あいつ、今日は帰りが遅くなるようだな。」 料理を食べながら、エドワードが ぼそりと言う。 「えっ、そうなの?」 「あぁ、料理も2人前しか届かなかったから 多分、かなり遅くなるんだろうな。」 少々、渋い顔をしながら言う兄に、 そこまで気にかけなくても、良い大人なんだからとも 考えたが口には出さなかった。 食事を終わった後に、簡単に食べれる夜食をエドワードが 作り始めたのには驚いた。 ほっておくと食事をしない中将の為だそうだが、 いくら雇われているからと、別に そこまでしなくても と胸中では思うアルフォンスだ。 そんな事を考えていると、リビングにも置かれている電話がなる。 兄は 予想していたように、自然に電話をとりに行った。 「ああ、あんたか。 うん、食べた ありがとうな。 そうか、やっぱり遅くなるんだな。 うん、解ってる 先に寝てるから。 うん、夜更かしはしないって。 うん、うん じゃあ お休み。 あっと、 それと夜食作って冷蔵庫に入れてるからな。 帰ってきて腹が空いてたら食べろよ。 そんな家事ってほどでもないよ、 片手間で作った物だからたいした物作ってないし。 うん、いいよ別に。」 自然と聞こえてくる会話の端々に 中将が エドワードを心配しているのが よく解る。 『なんか、同居人を心配していると言うよりか・・・。』 家で一人で置いてきた妻を心配している夫のようだ・・・と 怖い考えが浮かんできて、プルプルと考えを払うように 頭を振る。 「何やってんだ?」 電話を終えたエドワードが、そんなアルフォンスを見ていたらしく 変な行動をとっている弟に声をかける。 「う、ううん別に。 中将、やっぱり遅くなるって?」 「うん、そうみたいだ。 今日は もう先に寝てろってさ。」 さて、明日に備えて休むか~と伸びをして 寝ようとアルフォンスにも声をかける。 「うん・・・。」 自然なエドワードの言動に、エドワードが こういう電話の やりとりにも慣れている事がわかった。 それも、なんだか 複雑になるアルフォンスであった。 翌日、いつ戻ってきたのか解らないロイが キッチンで食事を作って、起きて来た二人を迎える。 「おはよう、エドワードにアルフォンス君。」 にこやかに挨拶をするが、 寝てないのが丸わかりの、目の下に隈を作っている。 「ちょ、ちょっとあんた、 いつ帰ってきたんだよ?」 慌てて声をかけるエドワードに、 席に座るように声をかけて、のんびりと返事をする。 「ああ、今朝終わってね。 時間があったから、今日くらいは 私が食事を作ろうかと。」 次々とエドワードの前に食事を並べて行くロイの返事に 二人とも驚いた。 「えっ、てことは 寝てないわけ!?」 驚いて聞いてくるエドワードに、そうだが?と キョトンとした表情で返事を返してくる。 「で、なんで料理なんか作ってるんだよ! さっさと寝て、疲れをとるべきだろ。」 今にも寝室に追い立てそうな勢いのエドワードに 「まぁまぁ、別に徹夜の1日位で そう心配する事でもないさ。」と 本人は 至ってのんびりと自分も食事を始める。 「それ食ったら寝ろよな。」 目で脅しをしながら、エドワードも せっかくのロイの好意を 無駄にしないようにと食事に手をつける。 朝から食べるにしては、豪勢な食事に 戻ってきたロイが、すぐに料理に取り掛かって休んでない事がわかる。 「美味しい・・・。」 中将の手料理は始めてのアルフォンスが、 驚いたように声を出す。 「口に合って、よかったよ。」 本人も機嫌よく返してくる。 「ああ、アルは初めてだよな。 ロイは結構上手だぜ。」 自分の事を褒められたようにエドワードが 嬉しそうに言う。 「まぁ、君の料理に比べれば 対した物じゃないがね。」 ニッコリと笑いながら エドワードに目をやる。 「そんなに謙遜する事ないじゃん、 あんたの料理は上手いし、かなりの腕前だぜ。 俺のは 毎日する回数がものを言っているだけ。」 「君に気にいってもらえてて嬉しいね。 また、時間を作ってご披露させてもらうよ。 けど、私は 君が作った料理が1番好きなんだがね。」 受験の朝とは思えない 緊張感の欠片も無い ほのぼのとした二人の会話に、 なんとなく疎外感を感じるアルフォンスだった。 食後のコーヒーも終わり、 「さて、そろそろ出かけたほうが いいんじゃないか?」 とロイが時計を見て声をかけてくる。 「そうだな、少し早いけど その方が 向こうでゆっくり出来るから そろそろ、行くわ。」 そう言いながら立ち上がるエドワードに、 一緒に立ち上がるロイ。 エドワードは 嫌そうな顔をして そんなロイに声をかける。 「まさかと思うけど、 あんた着いてくるとか言わないよな?」 ロイはしらっと、 「いや、送っていくつもりだが。」と返してくる。 「ちょ、冗談だろ。 あんたは、もう寝ろよ。 ってか、寝てください。」 「送る位別にいいだろ? そんなに距離があるわけでもないし。」 そう言いながら、すでに玄関に向かっているロイに 慌てて後を追うようにエドワードが着いていき 声をかける。 「でも、仕事もあるし 本当に良いから!」 必死に断ろうとしているエドワードに さらに驚くような事を あっさりと返してくる。 「いや、仕事は今日は休みをもらったんで 送ってから ゆっくりと休めるんで気にする事はない。」 「休みって・・・。 まさか、その為に昨日徹夜したんじゃないだろうな・・・。」 「まぁ、それもあるが どちらにしても 休みは取らないといけなかったし、 ちょうど仕事も切りよく終えれそうだったんでね。」 そう言いながら玄関の扉を明けるロイに、 エドワードは 下を向いて プルプルと怒りを抑えていた。 動かなくなったエドワードを不思議に思い、 「エドワード、どうしたんだい?」 と聞いてみる。 「・・・。」下を向いたまま何かを言うが 良く聞こえない。 「えっ、何て?」と近づいて聞き返そうと ロイが傍に寄ったのを見計らって、 キッとロイを睨みつけると、 「馬鹿やろ~!! そこまでする奴がいるかー!」と ロイが耳を押さえる事になる程の大音量で 激怒して叫ぶエドワード。 怒って一人で行くと 歩き出したエドワードを宥めすかして 戻ったら すぐ寝るからと約束を何度もしてから やっと送ることを許可してもらったロイは、 嬉しそうに助手席にエドワードを乗せて車を動かした。 アルフォンス君も一緒にと声をかけてくれたが、 なんだか とてもこの二人にはついていけないと 遠慮をさせてもらった。 兄のエドワードには、入試の心得をいくつか確認し 頑張れと送り出した。 そして、ロイもエドワードも留守にした家で お腹を抱えて大爆笑をする。 涙が出るくらい笑い転げて、危うくソファーから 落ちそうになった。 「あぁ~もう! なんか毒気抜かれちゃったよなー。 まさか、中将があれだけ過保護とは・・・。」 思い出すとまた笑いがぶり返りそうになるのを押さえ。 「はぁー」とソファーに凭れて伸びをする。 しばらく そうして目を瞑り、頭をソファーの背もたれに 凭せ掛けていた。 どれ位 そうしていたのか、パッチリと目を開けて よいっしょとばかり立ち上がった。 本当はわかっていたのだ、 兄が ここでの生活に不自由もせずに満足している理由も。 エドワードも ロイも本当に互いを思いあり大切にしている。 そして・・・多分、無くてはならない存在にもなっているのだろう。 自分とは違うが、エドワードとロイの中では 二人は すでに家族に近い関係を築き上げているのだ。 アルとエドは、生まれた時からの兄弟で家族だ。 だが、エドワードとロイは 多分、自分の意志で相手を選んで家族に近い絆を 築こうとしている者同士。 そんな風な相手を見つけれた兄を羨ましいとも思うし、 寂しくも思う。 でも、これから先 二人とも どんどんと仲間を増やしていく。 来年には アルフォンスも学校に通うようになるわけだ。 知り合って行く中で、ロイとエドワードのように 家族に近い信頼と絆を持ちたいと思う人とも逢うだろう。 きっと・・・。 「まぁ、僕には中将のような人は とても手に負えれそうにないから ごく普通の人たちと知り合っていきたいけどね。」 あの、中将を背負って行こうと言うのだから 本当に兄は凄いというか、苦労性というか。 エドワードが 国家錬金術師を辞めないのも ロイにあるのだろう。 今でも続ける事は反対だが、 エドワードは すでに自分の決めた道を歩き始めている。 認めたくはなかったが、自分とは道を違えて進んでいるのだ。 そして、その道は アルフォンスには歩けない道でもある。 なら、兄が困った時に助けれるような人間になろう。 今 道を違えていても、僕らが兄弟なのは永遠に変わらない。 「中将、僕は負けませんからね。」 誰も居ない部屋で、久しぶりに晴れ晴れとした顔を見せ そう決心を言葉にする。 その後しばらくしてロイが戻ってきた。 本当は余程疲れてたのだろう、アルフォンスに休む事を伝えると そのまま部屋で静かになった。 そして、また エドワードに怒鳴られること必至なのに、 エドワードの試験が終わる頃には迎えに出て行った。 そして、アルフォンスの予想どうり、 怒って不機嫌な兄を乗せて戻ってきた。 アルフォンスが試験はと聞き返すと、 機嫌よく返事を返して来るが、中将の事は無視したままだ。 それでも、お茶の準備をしてやり ロイにもカップを差し出す。 そして、その時に ボソッとつぶやいた言葉が 項垂れていたロイの機嫌を一挙に上げたようだ。 多分、アルフォンスには聞こえないようにと小さく言ったのだろうが、 中将の喜びを見てれば、なんと言ったのかは想像に難くない。 『ありがとう・・・嬉しかった。』 照れ屋な兄は 人の気配りを素直に受けれない時もあるのだが、 相手の思いやりを解らないほど鈍くはない。 早くから両親をなくした自分達にとっては、 ロイの行動は 照れるものがある以上に嬉しい事も本当だ。 それを受けている兄が、1番それを実感しているだろう。 中将はエドワードに、彼が得るはずで得れなかったものを 彼に出来る方法で与えようとしているのかも知れない。 僕には兄がいてくれた、けど じゃあ兄さんには?と考えると どれ程の時を 兄が一人で耐えていたのかがわかる。 受け取るべき愛情を受け損なってきたエドワードと、 与えたくとも 与える事が出来ずにきた哀しいロイとは 欠けていたジクゾーパズルのピースがきちんとはまったような 関係なんだろうと思う。 その晩は、エドワードの試験の終了祝いと アルフォンスが戻ったお祝いにと 食事を兼ねて軍のメンバーを呼んでのパーティーを する事になっているらしく、 ロイが レストランを貸切して準備していた事を知らされた。 恐縮するアルフォンスと、聞いていなかったらしいエドワード。 何か言いたそうにしたエドワードだったが、 嬉しそうにしている中将には それ以上何も言えないようで 素直に好意を受けて、礼を伝える。 ただし、『今日みたいな無茶をしたら、出て行く。』と釘を刺すのも 忘れなかったようだ。 中将は 顔を青くして何度もうなずいていた。 そんな国軍中将の情けない姿を見てはいけないと 僕はさりげなく部屋を出て行ったが・・・。 その後のパーティーは、とても楽しいものだった。 久しぶりに皆に逢えて、そして 体が戻った事を 本当に皆喜んで、受け止めてくれた。 そして、兄と中将が 皆に大切にされているのも 本当に よくわかった。 この人達なら、兄を任せても大丈夫だと思える程。 試験の結果は まだ先になると言う事もあり、 結果を待たずに ダブリスに戻る事にする。 それまで居ればという中将とエドワードの気持ちは嬉しかったが 兄が1歩1歩着実に進んでいるのを見ると そうのんびりともしていられない。 僕には 僕の為にするべき事をしなくては、 兄の横には永遠に立てないだろう。 それに、試験の結果は 全く心配していない。 試験の調子を聞いた時に、エドワードは 「つまらなかった。」と少し残念そうに言っていた。 アルフォンスが出した問題の方が 難しかったようだ。 最高得点での合格は間違いないだろう。 「じゃぁ、俺 何か食えるもの買って来るな。」 そう言うとエドワードは ホームの端にあるショップに 走っていく。 ロイはアルフォンスに向き合うと 「ありがとう」と頭を下げて礼を伝えてきた。 そんな中将にアルフォンスは きっぱりと返事を返す。 「いえ、兄の為にした事ですから、 中将に礼を言われる事じゃありません。」 そんな不遜な態度にも、中将は気にした風でもなく (兄で免疫がついているせいもあるだろう) 「いや、エドワードは君が来てくれてから 本当に嬉しそうだった。 私には それ程の喜びを与えてやる事はできないからね。」 少し悔しそうにそう言う中将の顔をまじまじと見てしまう。 『この人、本当にわかってないのかな?』 ロイが どれだけの喜びをエドワードに与えているのか、 そして、それこそ アルフォンスがエドワードに与えて やれないものばかりなのだが・・・。 『まぁ、しばらく気づかないままいてもらってもいいか。 僕から兄さんを引き剥がした張本人なんだから。』 そう意地悪い考えが浮かんできて、にんまりと心で笑う。 「中将、兄さんは 間単には渡しませんから。」 そう告げると、中将は驚いたような顔をした。 「アル~、ほらこれ持っていけよな。」 息を切らせてアルフォンスに買ったものを手渡すエドワードに 遮られて、中将は何か言いたそうにした口を噤んだ。 「じゃあ、僕はもう行くね。 心配はしてないけど、試験の結果が出たら ちゃんと連絡してよ。」 そう言いながらタラップを登っていく。 「おう、わかった。 ちゃんと連絡するな。」 じゃあ元気で、たまには兄さんも帰ってきてねと 声をかけると、兄さんは気づいてないのだろうが、 「ああ、また行かせてもらう。」と笑って答えた。 そう・・・、兄さんにとっては もう僕のいる所は 帰る所ではなくなってるんだと改めて感じた。 かなりの胸の痛みと共に・・・。 動き出した列車に手を振り合っていると 中将の声が届いてきた。 「私も 譲らないからな。」 強い意志を漲らせた声に、僕も負けるものかと 睨み返す。 そんな二人の間で、全く気づかない兄だけは 不思議そうに 二人を見つめていた。 動き出した列車の椅子に背もたれて、僕は決意を新たにする。 いつか、兄さんを助けられるだけの人間になろうと。 走り出す列車が、まるで 自分の未来へと続いているように 先へ先へと僕を連れて行く。 今は 離れても、また近く並んで行く為の二人の未来へ・・・。 それを願って、僕は静かに目蓋を閉じた。 [ あとがき ] ・・・本当は 今日はもうアップしないでいようと。 でも、ダメですね。 最近は 休みの度に書かないと落ち着かない。 平日に色々と考えて練っている(って程でもない)事を 書きたくて仕方なくて・・。 今回はアルフォンスバージョン連作でした。 実は、始めは最後まで ロイに反発するアルって設定だったんですが、 書いてると どんどん変わっちゃいました。 私の中でのアルフォンスは、そんなに子供じゃないからでしょうか。 彼は 兄に勝るとも劣らぬ人間だと思っています。 大人への階段を上がる前の 子供の感傷。 それが 今回のアルフォンスの行動だったんでしょうが、 やはり 優秀な彼らしく いつまでも駄々はこねずに 先へ続く道を選んで進んで行きました。 いつかは、エドワードやロイが驚く程の人格者に成る事間違いなし! そんなアルフォンスのお話でしたが、 少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。 次回は 少しインターバルをおいて、 番外編で 二人の旅行編を書いてみようかと思います。 トラブルメーカーの二人揃っての旅行では、 まともに終わりそうもないですね。 ではでは、また近いうちに! ジャンル別一覧
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